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マリア

第29章 追想曲



翔side


―十五年後―



「はー…疲れた。」



医局に入るなり、ソファーに身を預ける。



「櫻井先生、お疲れさまでした。」



と、差し出された湯気の立ち上るカップを受けとる。


「あ、すいません。」


「いーえ、どういたしまして。」



一口飲むと、ほんのり甘味を纏った苦味が口の中に広がった。



「戸間さん、これ、生姜湯?」



俺は戸間という年配の看護師に向けて、そのカップを掲げて見せた。



「今日は冷えますからね?」


「明後日あたりから雪だって?」


「ええ。今年最強の寒波だそうですよ?」


「そうなんだ…。」



ソファーに寝そべったまま、二口めを啜った。



「先生、そう言えば、明日からお休みでしたよね?」


「はい。」


「今年はご実家に帰られるんですよね?」


「んー、どうしようかな?」



確か…十五年前のあの日もそうだった。



最強の寒波、だとか、って…



とか、ぼんやり考えながらカップを啜っていると、


「ダメですよ?」


「え?」


「今年は帰ってあげないと…」


「ははは…」



戸間さん、お袋みてぇ…(汗)



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