マリア
第29章 追想曲
初めの何回かは親父かお袋にクリニックまで送り迎えをしてもらっていたけど、
段々と気持ちも落ち着き、地理にも慣れていって、今では電車を乗り継いで自分で通えるまでになった。
潤「食事はどう?食べてる?」
「何とか。」
潤「睡眠の方は?」
「まだ……眠れなくて…」
潤「そう…ま、あまり無理しないで。」
「はい。」
質問に対し、俺が答えていったことを先生は次々とパソコンに打ち込んでゆく。
潤「薬は…今のままでもう少し様子を見てみようか?」
「はい。」
潤「今、処方せん渡すからちょっと待ってて?」
「あの…先生?」
潤「うん?」
先生が車イスの向きを変えたところで呼び止めた。
「先生は…どうして精神科医になったんですか?」
潤「どうして、って…?」
「あ…いや…何か、先生を見てると外科医のイメージあるから…」
潤「ああ…そう言えばよく言われるかな?」
「…やっぱり。」
潤「でも、元々は外科医志望だったんだ。僕の父親がそうだったからね?」
「そうなんだ…?」
潤「ガッカリした?」
「あ、じゃなくて、その…」
潤「…ちょっと待ってて?」
と、先生は受付の女性にカルテを手渡した。