マリア
第29章 追想曲
そんなある日、親父が天気もいいしドライブをしないか、と誘ってきた。
行かないと一点張りの俺を無理やり引きずり出し、
三人がかりで俺を助手席に座らせ、さらには、席に括りつけるようにシートベルトを締められた。
諦めモードのまま、流れる景色をぼんやり眺めていた。
目に入る景色の全てが初めてで、
もしかしたら、
家族は俺の扱いに困って、何処か遠くの知らない町にでも捨ててこようと俺を車に乗せたに違いない、
などと考えていた。
「着いたぞ?」
親父は、とあるマンションの前に車を停め、助手席の俺に降りろと目で合図した。
車から降り、マンションのエントランスを潜って長い通路を歩いて行く。
その間、どこにいくのか、って聞いておけばよかったんだろうけど、
別に興味なんてなかったし、変な宗教団体とか得体の知れない施設に入れられるとかでなければ、どうでもいい、などと半ば自棄になっていた。
やがて親父がある部屋の前で立ち止まり、インターホンを押す。
インターホン越しの会話に聞き耳を立てていたら、もしかしたら分かったのかもしれないけど、
「すみません。これが電話で話していたウチの息子です。」
連れてこられたのは怪しい宗教団体でも得体の知れない施設でもなく、
「あ……あなたは…?」
潤「君は確か…」
あの、松本先生のクリニックだった。