マリア
第30章 祝歌
翔side
「さみぃ…」
耳元で唸る風の音が一段と大きくなって、
そろそろ戻ろうと思い立ち上がると、遠くの方で人の気配を感じた。
智のじいさんが忘れ物でも取りに来たのか、と思ったら、
それよりも若くて、すらりとした男と、
傍らには、寄り添うような小さな人影があった。
その人影は初め、俺の姿を見て一度立ち止まったが、
ゆっくりこちらに近づいてくる。
彼らの存在に初めて気づいた距離の半分ぐらいにまで縮まると、
その存在の正体が分かった。
雅「翔ちゃん…?」
そいつは、
恐る恐る距離を詰めながら俺の名を呼んだ。
「雅紀…?どうして、ここが…?」
雅紀は傍らに抱きかかえるようにしていた存在をさらに引き寄せ、壊れ物を扱うように懐に抱え込んだ。
驚いて立ち尽くしている俺に、雅紀は少し困ったように笑った。
雅「あの…そこ、いい?」
雅紀がさっきまで俺がいた場所を指さす。
「あっ…ああ…ごめん…」
俺がその場から一歩退くと、雅紀はありがと、と言いながら、懐に抱きかかえていた存在を労るように、
智の墓前に二人一緒にしゃがみこんだ。