マリア
第30章 祝歌
「十六年ぶり…か?」
雅「…そうだね?」
背後から話しかける俺の顔を見ることもなく、雅紀は淡々と会話を続けた。
雅「翔ちゃん、医者になったんだって?」
「あ…ああ。ちょっと時間かかったけど…」
さっきまで、雅紀の懐の中で大人しくしていた人物…女の子がひょっこりと顔を出し、
雅紀の顔を見ながら、何か言いたげに雅紀の体を揺すった。
雅「ん?何?」
雅紀が彼女の身ぶり手振りを見つめる。
雅紀は躊躇う素振りをし、でも、何かを吹っ切るように頷き、立ち上がって彼女と一緒に振り返る。
あ…もしかして彼女…耳が…。
雅「ふきちゃん、この人がね?…この人は…その…うん、なんだ…つまりは…俺の…」
「………。」
俺の知ってる雅紀は、
この俺のことを友達です、なんて、
俺たちの過去を知らない人に何食わぬ顔で紹介できるほど図太いヤツじゃないんだ。
だから…。
「俺…雅紀の友人の櫻井翔です。」
雅「翔ちゃ…」
よろしく、と、彼女に向けて手を差し出す。
すると彼女は嬉しそうに求めた握手に応じてくれた。
その隣には雅紀が涙ぐみ、唇を噛みしめていた。