マリア
第30章 祝歌
時折、少し強い風が木々を揺らす音に混ざって、何処からともなく聞こえてくる、春告げ鳥の愛らしい囀ずりに思わず顔をあげた。
和「いいとこだね?ここ。」
二宮が、寒そうに体を擦りながら立ち上がる。
和「東京よりかはここでよかったのかも知れないね?」
と、風にあおられる薄紫色の煙の行方を目で追いながら呟く。
和「あなたも側にいることだし…」
「約束だから…。」
和「約束、ねぇ…」
不意に二宮が「あった」としゃがみこみ、直ぐに立ち上がった。
和「はい。アンタにあげる。」
何だ?と思い、手を差し出すと、小さな四つ葉のクローバーを乗せた。
和「俺、そろそろ帰りますね?」
「え?もう?」
和「あんまり長居をすると、アナタの大切な人に叱られますからね?」
その瞬間、
俺たちの間を強い風が吹き抜け、
咄嗟に顔を覆った俺たちの足元で渦を巻きながら通り過ぎていった。
和「ほーら、怒られた。」
「まさか…?」
和「じゃ、今度こそ、帰るね?」
「なら、駅まで送るよ?」
歩き出す二宮のあとを追いかける。
すると、二宮は呆れた顔で振り返った。
和「あのねぇ…野暮なことしないでくれる?折角、二人っきりにしてあげようと思ったのに?」