マリア
第30章 祝歌
「ところで、今日は…?」
和「ああ、そうそう。忘れるところだった。」
と、二宮は脇においていた白いバラの花束を持った。
和「昔、アンタにあんなこと言ったけど、俺の方こそ大野さんのこと責める資格なんてないんじゃないか、って思ったんです。だから…」
花束を握りしめる二宮の肩に手を置いた。
「…行こうか?今から。」
和「そう言えば、あの人…雅紀、結婚したんですって?」
「えっ?どうしてそれを?」
駐車場から墓地までの少し長い道のりを話しながら歩いた。
和「本人から聞いたんです。子供も生まれた、って言ってました。」
「…二卵性の男の子と女の子だってさ?」
和「らしいですね?」
途端、二宮の目がすうっと細くなった。
和「一生、見張られて生きてかなきゃなんないんだなあ、って思いましたよ?」
漸く目的の場所が見えてきて、俺たちは足を止めた。
「そうでなくても、あんないい子が側にいるんだから、浮気なんかしないだろ?」
和「おや?そんなにできた嫁さんなの?」
「自分には勿体無いぐらいだ、って言ってたけどね?」
どうでもいいけど?と、二宮はバラの花束を墓前に供え、線香に火を付け手を合わせた。