マリア
第6章 練習曲
翔side
電車の中でキスしようとした礼音の顔が、
まさか、智と重なった、なんて、
本人を前にして言うこともできず、咄嗟に負けた試合のことを引きずってた、と適当に誤魔化した。
智「いい試合してたんだけどね?」
その試合、智は見に来てくれてたけど、
まだ、入院中だった礼音はいなかった。
「それが…気にさわったのかも?」
智の顔色を窺いながら俺は小さな声で呟いた。
智「じゃ、誤解は解けたんだよね?」
翔「え?」
「だって、礼音と…その…したんでしょ?」
「いや…した…っていうか…その…」
まさか、智からそんなしたとか、ってワードが出てくるなんて予想もしていなかった俺は、
適当な言葉が思い付かず返すことができなかった。
智「翔くん、あのね、怒らないで聞いてほしいんだけど…。」
「何?」
智「礼音は見ての通り病気じゃん?」
「う…ん。」
訝しげに自分を見つめる俺にはお構いなしに智は続けた。
智「でね?礼音みたいな病気の人でも出来るのかな、って思って、病院の先生に思い切って聞いてみたんだ。」