マリア
第6章 練習曲
は…?何?それ?
何で智がそんなこと気にすんだよ!?
智「そしたら、相手の人が優しくしてくれるんなら出来ないこともないよ?って?」
「…ムリだって、そんなこと。」
この時の俺はムカついていた。
「ただでさえヤったことないんだから優しくヤれ、って言われても出来る訳ないだろ!?」
どうして、当の本人でない智が、俺と礼音のセックスのこと気にすんだよ?
いくら妹が病弱だから、って、シスコンなのにもほどがあるだろが!!
智「ご、ごめん。そう…だよね?」
「その、優しくヤる、ってやり方を智くんが手取り足取り教えてくれる、ってんなら話は別だけど?」
智「え……」
「あ……」
苛立ち紛れに口をついて出てしまった言葉に、場の空気が凍りつく。
「…帰る。」
いたたまれなくなって、
逃げるようにその場を後にした。
走って…
走って…
智の家から出来るだけ離れた所まで逃げるように走ってきて、
緩んだスニーカーの紐に足が縺れて、こけて転んでしまうまで走って、
ここまで走ってくれば、
感情に任せて口走ってしまった言葉がチャラになるかな、なんて、
虫のいいことを考えるぐらいに、
俺は智に向けて言ってしまった言葉を後悔していた。