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暗がりの中の灯火

第1章 Prolog

 その夜、家に帰ると独りで。いつもあった彼からのメールも電話もこない。着信履歴やメールの受信ボックスには彼の名前がずらりと並ぶ。

 涙が零れ落ちた。寂しい。寂しい。寂しい。そんな想いに支配されて、一人じゃ眠れない。誰かにすがりたい。すがれない。

 いつの間にか、プライドを高く持ちすぎていた。いつの間にか弱音の吐き方を忘れていた。そんな私だから彼は、私を振ったのだろうか。答えは分からない。聞けなかった。理由さえ。

“行かないで”

 言えなかった。その一言が。ダメだね私。気づくのが遅すぎた。友達が言っていた。

“一番大切なことは失ってから気づくよ”

 その言葉の意味が今頃分かった。

 彼に電話する。無機質なアナウンスが聞こえる。

「お客様のご都合により、この電話はお受け取りできません――」

 今夜は眠れそうにない。

 私はコートを羽織り、携帯と財布と家の鍵だけをポケットに詰め込んで、外に飛び出した。

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