両親の部屋を盗撮したらとんでもない秘密を……。
第1章 プロローグ
「笑わせんな、オマエになにがわかるんだよ」
僕は生クリームが付着したフォークをテーブルの上に放り投げて吐き捨てるように言った。
ひとりぼっちの家の中ではもちろんだれも答えてはくれない。
クリスマスイブの今日、中学生の息子が両親をバットで殴り殺したという事件が夕方のニュース番組で報道されていた。
「クリスマスだというのに、こんな酷いことが親子のあいだで起こるなんて信じられません」
レポーターにマイクを向けられた近所の住民らしきババアが興奮ぎみに話す。
このババアはきっと、自分のまわりはみんな善人で、殺人事件なんてぜったいに起こるはずがない。自分とはまったく無縁の出来事だ。って思ってるんだろうな。
「きっとコイツもひとりぼっちで苦しんでいたんだよ。だれでもいいから闇の外に連れ出して欲しいって……」
思わず僕は呟いた。
鏡に映っているのはアザだらけになった身体。
それを見ている僕の顔は、精一杯無理して笑っているように見えた。
同じ屋根の下で一緒に暮らしているからといって、いったいお互いのなにがわかるんだ…
床の上に粉々に砕け散ったグラス。深紅のソースを浴びてボロボロになったクリスマスケーキ。
「ジングルベール、ジングルベール鈴が鳴る。今日は楽しいクリスマス…」
僕は血だらけになった手を流し台で洗いながら口ずさむ。
孤独という闇の中で、テレビの画面だけが、やけに明るく見えた。
「さて、そろそろ始めるか」