わたし、お金のためならなんでもします。
第1章 プロローグ
「せえーかぁーい!」
男はゴールを決めたサッサー選手みたいに飛びはねながらガッツポーズをして、犬の遠吠えに似た叫び声を上げた。
こ、こ、こっ、このひと、いったいなに?
命のつぎにだいじな自分のお金が一瞬にしてなくなるんだよ?しかも縁もゆかりもない、まったくのあかの他人だよわたし?
なのに、なんでこんなによろこんでるわけ?
だいたい末期ガンなのに、なんでこんなにテンション高いの?
わけわかんないことだらけなんだけど……。
わからないだと?そんなはずはないだろ?おまえの大好きなお金が、こんなに簡単に手に入ったんだからうれしいだろ?
そんな声がどこからともなく聞こえてきたような気がした…
そう、大好きなお金を簡単に手に入れることができて、うれしかったのはたしかだ…
けれど、あまりにも簡単に大金を手にしたわたしは、えたいのしれない不安感が胸のおくでじわじわと広がっていくのを感じていた……。