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赤い鴉

第3章 rain

祖父は大物政治家、父と母も二人三脚で大手大企業を経営している、近隣で綾瀬の名を知らない者はいないと云われるくらいの名家に生まれたタケルは一族でも飛び抜けて優秀と云われている兄、大河と幸せな毎日を送っていた。
「兄さん、家出るの?」
久々に帰って来た両親と兄の4人で夕食を囲んでいると大河が深刻そうな顔をして大学を卒業して就職したら家を出ると云う話を訊かされ呆然とするタケル。
「猛!大河はこれまであなたの面倒を見てきたのよ」
「……分かったよ…」
タケルは渋々頷いて大河の門出を祝った…それがこの後の悲劇に繋がるとは知らずに。




大河が家を出て1ヶ月が過ぎた、家にはお手伝いさんがいるので生活には困らないが寂しさを覚えながらもなんとか普段通りの生活を送っていた。今日も学校を終え自室で今日の復習と明日の予習をしていると背後から物音して振り返る。すでに食事を済ませお手伝いさんは帰ったはずだ。
タケルはのどを潤すついでに何の音か確かめることにした。暗い廊下を周囲をキョロキョロしながら歩く、昼過ぎから降り出した雨音がタケルの恐怖を煽る。
「君がタケルくん?」
「だ、誰!?…」
振り返ろうとすると見知らぬ男がタケルの口元に布を押し当てる。タケルの身体から力が抜ける。意識を失ったタケルを男は軽々と肩に担いで家を後にした。



「うっ…」
目を覚ました場所は見知らぬ部屋だった。ただ広いベッドが置かれてるだけの部屋。タケルはぼんやりとした意識の中、周囲を探る。
「な、なんだよっ…これっ…」
首に黒い革の首輪を嵌められていることに気付く。今すぐこの場から逃げ出したいが首輪に鎖が付けられていてベッドの柵と繋いでいてベッドから動くことは出来ない。
「おっ、やっと起きたか、薬が強くて長い間寝っぱなしだったからな」
「だ、誰!?」
部屋に入って来た男は近くのイスに腰掛けビール瓶をテーブルに置いた。
「おっ!目を覚ましたか」
ガラの悪そうな男が数人、ぞろぞろ入って来る。
「俺達はお前の祖父の政敵に雇われてお前を拐ったんだよ」
男はタバコを吸いながらタケルに事情を話した…難しいことは分からなかったが祖父に選挙で負けた誰かが仕返しに彼らにタケルを拐うように依頼したことは辛うじて理解した。

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