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すきってきもち

第3章 後ずさり





泣き崩れてる女性が進む先に


今日は休みだけど忘れ物を取りに
店に行って帰る途中

こういう女性はホストクラブが近いと
よく見るけど、あの後ろ姿は……



こころが震えた




間違えるはずない

"また迷子になって不安になったの?"

そんな軽く行ける関係じゃない
何て声掛けようか迷いながら

ゆっくり近付く
止まりかけた呼吸を整えながら



あと3歩……

「ツラい……」



つら……い?
弱音なんて吐かなそうな百合さんが
つらい?

小さい背中を更に小さくして
泣きじゃくるから

手を伸ばしてしまった
愛おしい人


百合さん


今日だけ、今だけ、
あなたの隣にいることを許して

あなたの心に寄り添わせて欲しいんだ


泣いてるあなたをひとりになんか出来ない

こういう時に頼ってもらえる
自分でありたかった

「ごめんなさい、すぐ終わるから」

やっぱり……やっぱり、俺といるのは
百合さんに触れている部分が
一瞬にして冷えきった

あの日拒否されてるんだ
百合さんの許可なしに近付けない

でも、手を退けられもしない


百合さんが少しでも楽になれるなら
俺は嫌われてもいいよ



「なら、俺に側にいさせて」

できるならこれからもずっと


それからゆっくり深呼吸して
落ち着きを取り戻した

か細く俺の名を呼ぶ
「レイさん」
「ごめんなさい、付き合わ」
「謝らなくていい、大丈夫?」
「ええ、大丈夫……」

大丈夫じゃないって言ってほしかった


「百合さん、少し休も」
顔色が悪い

最後に見たときより痩せた

リップを塗らなくても血色がよくて
キスしたくなった唇も

艶々でサラサラだった髪も


前みたいにキラキラしていない

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