原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
相葉くんが教壇に立っている姿を教室の一番後ろから眺める。
学ランではなくビシッとスーツに身を包んだその姿が何だか頼もしくも見えて。
いよいよ今日から始まった、相葉くんの教育実習。
昨日はあんなに意気込んでたのに今朝は遅刻なんかしちゃって…
まぁそんなとこも相葉くんらしいか、なんて。
午後の3年生のクラスで初めて相葉くんが授業を担当することになったけれど。
やっぱりどこかぎこちない動きや話し方に初々しさを感じて、何だか妙に微笑ましい。
俺との模擬授業の時みたいにはリラックスできないか。
まぁ無理もないよね、初日だもん。
…あ、チョーク落とした。
教壇の上で終始あたふたする相葉くんがおかしくて。
抱えた教科書に隠れて生徒と一緒に思わず笑ってしまった。
いいや、このまま隠れて見てよう。
なんとなく相葉くんを真っ直ぐ見てられないから。
今朝から思ってたけど…
今日の相葉くんは一段とカッコいい。
見慣れないスーツや実習用に染め直した黒髪のせいかもしれないけど。
ううん、それだけじゃなくて…
なんだか一気に大人っぽくなったような気がして。
生徒の中に居るからかな。
うん、やっぱり…
カッコいい、俺の相葉くん。
そう心の中で呟いたら自分で言っておきながら恥ずかしくなってきて。
赤い顔を教科書で隠しつつチラリと前方に目を遣れば、相葉くんの頭上にある時計が間もなく終了時刻を指そうとしていた。
すると一人の生徒が手を挙げて相葉くんを呼び。
「せんせーに質問がありまーす!」
その声色からして授業には絶対関係ない話だと一瞬で悟ったけど、生徒からの質問とあって前のめりで聞く姿勢を作った相葉くん。
そして。
「せんせー彼女いますかー?」
「…えっ?」
「つーか大学って女の子いっぱいいるんすよね?羨ましー!」
「俺も彼女ほしー!」
その案の定の質問にクラス中が反応し、困惑した顔で遠くの俺に視線を向けてくる。
もう…すぐこういうこと聞きたがるんだから。
"言わなくていいよ"の意味を込めて軽く首を振って合図したら、こくりと頷いて生徒に向き合い。
「うん、先生付き合ってる人いるよ」
…はっ!?
相葉くんのまさかの発言にまたもクラスがどよめいて。