原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
ワンルームのキッチンに立ちコポコポとコーヒーをマグカップに注ぐ。
背中に受けるのは見なくても分かる程どんよりした負のオーラ。
ローテーブルのある部屋の真ん中で、多分正座でしょんぼりと項垂れている姿が目に浮かぶ。
昼間の相葉くんの信じられない発言にはさすがにお説教してやんなきゃと、今日は仕事終わりに有無を言わさず家に引っ張ってきた。
初日からよくもやってくれたよね、相葉先生。
絶対俺たちのことバレたらダメだって言ったよね?相葉先生。
バレてないにしてもあの発言は余計だと思うんだよ。
生徒からの関係ない質問を真に受けちゃってあんなことやこんなこと…
いや確かに俺だって相葉くんを止められなかったのは悪いけど。
ちょっときゅんとしちゃったし…
っていやいや!調子に乗ってベラベラ喋った相葉くんがいけないんだよ!
あんなプライベートなこと授業中に、しかも教育実習中だよ?
…絶対ありえない。
ガツンと言ってやんなきゃ、相葉くんのために。
ふぅと息を吐いてマグカップを両手に振り返ると、すぐ後ろに相葉くんが立っていてびくっと肩を揺らした。
「わっ…」
「にのちゃん…」
見上げる先の表情は蛍光灯の逆光で薄暗く、はっきりとは窺えないけれど。
俺より高い位置にあるはずのその瞳がどこか覗き込むように潤まっているのは分かって。
…もう。
するりと横を通り抜けてテーブルに足を進めれば、ぴったり後ろをくっついてきて俺の隣に座ろうとしたから。
「相葉くんあっち」
マグカップを対面にコトッと置いてそこに座るように促した。
コーヒーの温かい湯気を挟んでお互い正座で向き合う。
スーツのままの相葉くんは、居心地悪そうに肩を竦めて膝の上で拳を握り締めていて。
自分でもいけないことをしたっていうのは分かってるみたいだけど。
…そんなあからさまにしゅんとされたら怒るに怒れなくなるじゃん。
「…相葉くん」
ぽつり小さく呼び掛ければおずおずと上がった顔。
大人っぽく見えていた昼間とは一変して幼さの残るその表情。
「授業の前に俺が言ったこと覚えてる?」
「…はい」