
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
「じゃあなんであんなこと生徒に喋ったの?」
「それはっ…」
「…うん、なに?」
「いや…また俺、なんかやらかしちゃったのかなって思ったから…」
目線を下げて話しだした言葉に意味が分からなくて再度訊ねる。
「いやだから…今日の午前中にさ、にのちゃんの様子が変だったから…」
「…俺?」
「うん…どうしたのって聞いても何でもないって…絶対何かあるって思って、俺…」
自信なさ気に小さく繋げる声を聞きながら、ふと午前の授業後のことが頭を過ぎった。
あれは相葉くんが俺の授業を見学してて、終わって教室を出て行ったら後ろから呼び止められて。
…そうだ。
駆けてくる相葉くんのスーツ姿がやけにカッコ良く見えて不自然に目を逸らしてしまったんだっけ…。
職場でヘンな気持ちになっちゃいけないって思ってその時は逃げるようにその場から離れたんだった。
そんな些細なことを気にしてたんだ、相葉くん…
「そしたら今度はお昼に目逸らされちゃうしさ…」
「えっ?」
「ほら、加藤くんが来た時」
「え?あ…」
それは全然意識してなかったかも。
加藤先生って個性的なんだなって思ったぐらいで…
「だからね、もしかしてにのちゃん…やきもち妬いてんのかなって…」
「…えっ?」
「だからっ!そんなことないよって、俺はにのちゃんだけだよって意味で…なんつーか、宣言?したくて…」
言いながらバツの悪そうな顔で頭をポリポリ掻く仕草をしてみせる。
もう…
そんなこと言われたらさ…
「…ほんとに妬くかも」
「え?」
「だって相葉くんカッコいいから…生徒に人気出そうだもん」
「っ、そんなこと言ったらにのちゃんだって!あんな男だらけの中に毎日居るんでしょ?そっちのが心配だってば!」
「なっ…何言ってんの?俺なんか全然っ…」
互いに声のボリュームが大きくなってすぐ、いきなり向かいの相葉くんがすくっと立ち上がって。
俺の背後に回り込んできて瞬く間にぎゅうっと抱き締められた。
急に包まれた引き締まった腕の感触に途端にどくんと跳ねる心臓。
「…心配なんだって、ほんとに。今日はっきり分かったんだよ」
耳に届く相葉くんの声。
その低い響きから真剣さが痛い程伝わってきて。
