
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
「…誰にもあげない。俺のにのちゃんだから」
意志のこもった声色で言い終えて更にぎゅっと抱き締められた。
そんなストレートな言葉に、もう何年も一緒に居るのにいちいち心臓を鷲掴みにされてしまう。
「あいばく…」
「絶対誰にもあげないから」
耳にぴったりくっつく吐息にも似た囁き声にゾクリと背筋が反応してしまう。
目に飛び込んでくるスーツの袖。
それがいつもと違う相葉くんを象徴しているようで。
「…皺になっちゃうよ」
抱き締められた腕にそっと触れながら顔を振り向けば。
「……じゃあどうしたらいい?」
覗き込むように傾けてきた相葉くんの整った顔。
その艶っぽい瞳に惹き込まれてしまいそう。
でも…ダメダメ。
今日から相葉くんは教育実習なんだから。
そもそも今日はそんな予定じゃなくてちゃんとお説教するつもりで…
「スーツ…脱いでいいの?」
ぎゅっと密着した体は相葉くんからの熱なのかジンジンと火照りだして。
おまけにゆらゆらと揺れる瞳を自覚しながら、真っ直ぐ向けてくる視線から逸らすことができない。
揺らいでいるのは瞳だけじゃなくて思考も。
ダメだって思う反面このまま流されてしまいたいって。
だって…
大好きな人とこんなにいいムードになっちゃったんだもん。
添えていたスーツの布地をぎゅっと掴む。
とくとくと高鳴る心臓に身を任せるように、目の前の漆黒の瞳を見つめながらそっと瞼を閉じようとした時。
「なぁんてねっ」
と、軽い声色で発せられた言葉に。
閉じかけた瞼をパチっと開いて相葉くんを見た。
「実習中だもんね?ごめんごめん」
「っ…」
「あー危なかった。持ってかれそうだったの堪えたー」
ぎゅっとわざとらしく目を瞑ってみせるその仕草に、たちまち恥ずかしさが込み上げてきて。
と同時に何だか無性に腹が立ってきた。
「もっ…離れてっ!」
抱き締められていた腕からもがいて脱出し、ぐいっとその肩を押す。
期待してしまったことの恥ずかしさや、俺より相葉くんの方がセーブが利いている情けなさや。
何より…諭そうとした筈なのに逆にからかわれたっていうこの状況に何とも言えないモヤモヤが広がって。
