
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
はぁ~っと盛大な溜息を溢しつつ職員用玄関に重い足を踏み入れる。
昨日、にのちゃんの家から突然放り出されてしまった俺は。
にのちゃんが一体何に怒っているのかをずっと考えていたけれど。
いくつか思い当たる節はあるにしても決定的にこれってのが分からなくて。
授業中に生徒に色々喋ってしまったこと?
俺が加藤くんと仲良く喋ってたこと?
やきもち妬いてるんじゃないかって勘違いしてたこと?
それとも…
ってマジで何なんだよ!
分かんないよにのちゃん!
低い位置にある靴箱に屈んでスニーカーを突っ込みながら、浮かぶのは昨日のにのちゃんの顔。
眉間に皺を寄せて睨みつけるように潤んだ瞳が頭から離れなくて。
あんな顔初めて見た。
それに、にのちゃんにあんな風に声を荒げられたのも初めてで…
待った。
これってもしかして…
俺たちケンカしちゃったの?
え、嘘だろ?これってケンカ?
一瞬で今までにのちゃんと過ごしてきた日々が蘇る。
思えばケンカなんて一度だってしたことなくて。
付き合い始めの頃はすれ違いや勘違いが多かったから、それからは何でも言い合おうって。
それだけは絶対約束しようって二人で決めていた。
だから今まで割と順風満帆に過ごしてきたつもり。
でも昨日のにのちゃんは今までの感じと違ってて。
あんなに感情を出して俺にぶつかってきたのは初めてだった。
…これってヤバいやつかな。
俺またとんでもないことやらかしちゃったの…?
「相葉先生っ!」
固まって動けないでいた背後から突然掛かった声。
無駄に驚いて振り向けば満面の笑みで手を振って駆けてくる加藤くんの姿。
「おはようございますぅー!昨日は初日お疲れさまでしたぁ」
「あぁ、おはようございます…」
朝から120%のテンションで迫ってくる圧に思わず一歩後ずさってしまう。
加藤くんには悪いけど今の俺はこのテンションに付いていけなくて。
マシンガンのように話し掛けてくるのを上の空で返事をしていると、俯きながら玄関に入ってくる人影を見つけて。
瞬時ににのちゃんだと気付いて加藤くんの肩越しに挨拶をしたら。
「…おはようございます」
チラッと視線を遣りぺこりと会釈をして通り過ぎて行ってしまった。
