
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
その後もにのちゃんとは妙にぎくしゃくした感じが続いて。
俺の指導担当だから一日を通して一緒に居る時間が長いんだけど。
昨日の初日とは打って変わって全くニコリともしてくれない。
話すことといったら授業に関することや生徒に関することのみ。
必要最低限しかにのちゃんと話せる機会がなくて。
というより話し掛けるなオーラが半端ないって言ったほうがいいのかもしれない。
だから俺も必要以上に話すこともなく。
そんなだから昨日のケンカの原因も全然掴めないまま。
そもそもケンカなのかも定かではない状況。
一体にのちゃんは何をそんなに怒ってんの?
仕事中も引きずるなんてさ…はっきり言って俺はすごく困るんだよ。
だって教育実習で来てんのに担当の先生からこんな冷たい態度取られたらどうしていいか分かんないってば。
もう…
何考えてんだよ、にのちゃん…
号令の後いつものように前のドアからすぐさま出て行く後ろ姿。
後ろに居た俺のことなんか一度も見てくれなくて。
その背中を追い掛ける気にもならず、溜息を溢しつつ後ろのドアから出ようとした時。
「あのっ…相葉先生っ!」
誰かに呼び止められて振り返れば、そこに居たのは今しがた授業を受けていた生徒で。
3年生にしては小柄で童顔なその生徒が、遠慮がちに見上げながら口を開いた。
「あの…そ、相談があるんですけど…」
「…え?俺に?」
「はい、相葉先生に…聞いてほしくて…」
丸い瞳をくるくる彷徨わせながらたどたどしくそう呟く生徒。
「あ…えっと、ごめんまだちゃんと名前覚えきれてなくて…」
「あ、知念です…理科研究部の知念侑李といいます」
言いながらぺこりとお辞儀をした知念くんの赤く染まった顔を見て脳裏に昨日のことが過ぎった。
…あ!
「もしかして昨日俺とぶつかんなかった?」
「あっ…あの、すみませんでしたっ」
「いやいや!俺は平気だったけど君は大丈夫だった?ごめんねー」
謝りながら何気なく肩にポンと置いた手にビクッと反応されてしまって。
「え?あ…ごめん」
「いえっ…あの、今日の放課後とか…お時間頂けませんか…?」
窺うように覗き込んでくる瞳は真っ黒く澄んでいて。
その瞳を見たら何だか断れなくて二つ返事で頷いた。
