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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






午後は来週に迫った体育祭の練習で授業は一コマしかなくて。


しかも実習生は別室に集められて教材研究の指導を受けることになったらしく。


傍に相葉くんが居なくてこんなに安心したのも初めてかも知れない。


昨日から職場に相葉くんが居るっていう違和感が拭えなくて、同時に抑えているつもりでもどこか浮き足立ってる自分を自覚していたから。


ちゃんと気を引き締めてないといけないのはきっと俺のほう。


あとちょっとだから頑張ろう。


後で相葉くんに今日の夜空いてるか聞いてみよっかな。



「せんせぇー」

「…はい?」

「なんかいい事あったんですかー?」

「えっ?」


ふいに一番後ろの席のクラスの中でもやんちゃな生徒が手を挙げながらそう言い放ち。


「なんか超幸せそうな顔してんすけどー」

「そうそう、俺も思った!せんせーそれ可愛すぎてヤバい」

「なっ…」


一気に騒がしくなった教室。


火が点いたように隣や後ろ同士で喋り出す生徒たち。



えっ?俺どんな顔してた!?


全然意識してなかった…



指摘され両頬を摩りつつそんなことを生徒から言われてたちまち焦燥感が襲う。


「うわ、せんせーそれも可愛すぎだって!わざとやってんすか?」

「へっ?な、なにがです…」

「つーかあんま俺らのこと揺さぶんないでくださいよ〜今年受験なんすからぁ」


アハハと笑い合う声と共に飛び交う"可愛い"の声。


相葉くんと付き合うようになってからたまに耳にするそのフレーズにいつまで経っても慣れることはなくて。


というか寧ろ、単にからかわれているだけのそれは不快以外の何者でもない。


確かに相葉くんにはよく言われるけど…
別にそれは嫌とかじゃなくて…



「ほらまたそんな顔してー!もしかして誰か思い浮かべてんすか?」

「はっ?な、何言ってるんですかっ!」

「え?せんせーマジ図星っ?えぇー嘘だろぉ!俺のオアシスがぁ〜!」


ギャハハと笑う生徒たちは完全にヒートアップして手が付けられない状態に。


思わず教卓を叩こうと手を振りかざしたと同時に軽いチャイムの音がこだまして。


号令の合図で一礼をした生徒たちが頭を上げるのを待たずに逃げるように教室を後にした。

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