
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
結局あれからHRのみ相葉くんと一緒に居ただけで。
その最中も特に会話をすることなく最後まで何とかやり切れた。
ホッと胸を撫で下ろして職員室で明日の授業準備に取り掛かる。
もう暫くしたら実習日誌を提出しに来るはず。
その時に今日の夜のこと聞いてみよう。
思えば今日はまともに話せてないし。
…いや俺がそうしてただけなんだけど。
きっと相葉くんも困ってるよね。
だからちゃんと話すから…俺の想いとか全部。
心の中で改めてそう呟いて、小テストの問題作りに思考を切り替えた。
***
集中していたせいか時間の経過に気付くのが遅くなってしまって。
職員室の時計を見上げれば優に小一時間は経っていた。
相葉くんまだかな…
周りを見渡してもそれらしき姿はない。
「…大野先生、相葉先生って戻ってきてます?」
「んぁ?いや、見てねぇけど」
頬杖をついて同じくテスト用の問題を考えていたらしい大野先生が首を捻る。
「なに?心配?」
「違いますっ…日誌の提出がまだなんで」
わざとらしく細められた目に嫌な予感がして、席を立ち職員室を出た。
相葉くんの行きそうな所は幾つか見当がつく。
…とりあえず図書室に行ってみるか。
そう思い立ちペタペタとサンダルを鳴らして階段を上がった。
図書室へと続く廊下の途中、右手には3年生の教室がある。
夕方のこの時間は陽も落ちて教室の中も薄暗くなっていて。
念の為、各教室のドア窓からチラッと中を覗きながら図書室へと向かう。
最後の3年E組のドアの前。
そこに飛び込んできた光景にペタンと立ち止った。
こちらに背を向けた相葉くんと小柄な生徒。
電気も点けず何か話し込んでいる様子が伝わってくる。
相葉くん、何してるの…?
途端に胸騒ぎがしてその場から動けずに拳をぎゅっと握り締めた。
次の瞬間。
相葉くんの手がその生徒の頭をぽんぽんと撫でて。
と同時に、ゆっくりと抱き着いて背中に回された小さな手。
うそ…
どうして…
背中にじわっと汗が滲んで体中が熱くなる。
焼き付いたように離れない光景が脳裏に纏わりついて。
やっと動かせた足は震えながら、気持ちとは裏腹なサンダルの音を響かせて職員室へと走り出した。
