
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
実習日誌を片手に急いで職員室へと走る。
実習生の就業時間はとっくに過ぎている時刻。
こんなんじゃまたにのちゃんに怒られそう…
職員室のドアをガラッと開ければ、ずらりと並んだ机の群れに齧りつく先生たちの姿。
その中ににのちゃんの姿が見当たらない。
あれ?
図書室かな…?
「大ちゃ…じゃなくて大野先生、二宮先生ってどこに…」
「ん?あれ、お前まだ居たのか」
大ちゃんの背中に問い掛けたら驚いたように振り向いて。
「いや実習日誌まだ提出してなくて…」
「え?もう見たって言ってたぞ」
「え?」
「二宮先生お前のこと探しに行っててさ。さっき帰ってきたから聞いたらそう言ってたけどな」
"会ってねぇのか?"って付け足して見上げてくる大ちゃんに言葉が見つからず。
「けどな、先生もう帰ったぞ」
「えっ?」
「なんか顔色あんま良くなかったみてぇだけど…具合悪かったんじゃねぇかな」
空を仰いで考えるように口を尖らせてからこちらに差し出された手。
「代わりに俺が見といてやるよ。どうせ加藤先生の分もあるしな」
「あ…お願いします」
「しょーがねぇなぁ~」
大げさに言いながら受け取る大ちゃんに思わず笑みが溢れる。
けれど胸の中のモヤモヤは広がっていくばかり。
にのちゃん…
なんで大ちゃんにそんな嘘ついたんだろ…
やっぱり体調悪くてすぐ帰りたかったからかな…?
今日一日の様子を振り返ってみてふと脳裏を過ぎったこと。
俺への態度はもしかしたらずっと体調が悪かったからなのかもしれない。
大ちゃんに一礼して職員室の隅の荷物置き場へ急いだ。
何かしらの連絡が入っているかもしれないと探ったリュックの中、スマホを掴んで画面を見れば。
新着メッセージはにのちゃんではなく翔ちゃんからで。
『雅紀集合!就活のストレスで俺どうかなりそう!
今日の夜いつもの居酒屋に19時な。強制。返信不要!』
そんな一方的なメッセージを確認して、つい先月会った時の元気のない顔を思い出した。
ほんとはにのちゃんちに行って様子を伺いたいところだけど…
とりあえずLINEだけ送っといてみるか。
スマホを握り締めてリュックを背負い、先生たちに挨拶をしながら足早に職員室を後にした。
