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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






ガヤガヤと飛び交う活気に満ちた声。


もはや常連となりつつあるこの大衆居酒屋は、学生の俺たちでも通える程リーズナブルで良心的。


隣のテーブルとの距離はそれほど空いていないにも関わらず、この活気の中ではそれも気にならないくらいで。


対面ではビールジョッキを勢い良く傾けて喉を鳴らす翔ちゃん。


ゴトっとテーブルに置いたジョッキを見つめて次に溢したのは盛大な溜息。


「あ~マジでなんなんだよ…」


黒く染めた髪をくしゃっと掻きむしって俯くその姿は、先月よりも大分キテるみたい。


「なに?今度は何があったの?」

「もう雅紀聞いてくれよー…」


そう言いながら縋るように向けてくる瞳を覗き込んだ。



翔ちゃんは全国的にもそこそこ有名な不動産会社を第一志望にしていて。


インターンシップも終わってようやく選考の時期に入り、いよいよ面接という段階にきたみたいだけど。


その面接でどうやら大苦戦しているらしく。


いわゆる…自己PRが下手くそなんだって。



「俺ってさぁ、今まで特にこれといってやってきてないしさぁ…。勉強も別に出来る方じゃなかったしさぁ…」

「…うん」

「どっちかっつーと課題とか忘れたりして出来損ないのカテゴリだったと思うんだよな…」

「…まぁ」

「部活もやってなかったしこれと言って頑張ったって言えるもんもないアベレージ男っつーかさ…」

「…そうだね」

「いやちょっとは否定しろ!自分で言ってて結構傷付いてんぞ俺!」

「ひゃははっ!」


落ち込んでいたのに急に噛み付いてきた口調に思わず笑ってしまった。


やっと柔らかくなった表情に一安心して枝豆を摘まむ。


「けど自己PRってそんな大変かなぁ。そういうの松潤に聞いてみたらいいじゃん」

「いや聞いたけどさ!アイツ適当なことしか言わねぇんだって!」

「なに?例えば?」

「え?いや、その…」

「うん?」

「……いややっぱいい!もうこの話終わり!」

「はぁ?何だよそれぇ!」


まだ一杯しか飲んでいないのに急に顔が赤くなった翔ちゃんは、誤魔化すように今度は俺に話を振ってきた。

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