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原稿用紙でラブレター

第5章 青いハートに御用心






「そういえば来週体育祭なんだろ?
もうそんな時期か~、早ぇよな~」


唐揚げをパクっと頬張りながらわざとらしく感嘆の声を上げる。


「翔ちゃんも見に来るんでしょ?松潤が言ってた」

「まぁお前が居るなら行こうかな」

「くふっ、何言ってんの松潤居るからでしょ」

「んなっ、うるせぇんだよいちいち!」


もぐもぐさせつつ否定してくるその口調はもういつもの翔ちゃんで。


空になろうとしているジョッキに気付き店員さんを呼ぼうとしたら、遮るように投げ掛けられた言葉。


「そっちこそどうなんだよ、二宮先生と」


どんぐりみたいな目をニヤニヤと細めて聞いてくる楽しそうな声。


「…うん、別に順調だよ?」

「あれ?今なんか間がなかったか?なぁ?」

「っ、何だよっ!別に何もしてないってば…」

「…ふーん、またなんかやらかしたんだなお前」


つい口を衝いた言葉を翔ちゃんは聞き逃さなかった。


しばらくだんまりを決め込んでいたけど翔ちゃんのしつこい尋問に口を割ってしまい。


「ふははっ!お前そりゃねぇだろ!なんでそんなこと生徒に喋ってんだっつーの!」

「いやだからさ!にのちゃんがヤキモチ妬いてんじゃないかなって思ったからそれで…」

「だからって調子に乗ってんなこと喋ったらいくら先生だって怒るわ!」

「んー…やっぱそれかぁ…」


改めて他人からそう言われるとつくづく自分のしたことがバカげて思えてくる。



やっぱりにのちゃんが怒ってんのはそのことだよね…


あ~…俺ってばなんでこういつも気持ちが空振りしちゃうんだろ。


大事に想ってるってただ伝えたいだけなのにいつも方法を間違えてる気がする。


全然成長してないじゃん、俺。



一気に萎えてくる気持ち。


それを察したのか、翔ちゃんが店員さんから受け取った真新しいジョッキを俺にも寄越してきて。


「まぁとりあえず今日は飲もうぜ!今日だけは嫌なこと忘れてさ!」


飲み始めた頃のテンションとは真逆になっている翔ちゃんに苦笑しつつ、その笑顔につられてお互いのジョッキを近付けて軽快な音を鳴らした。

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