
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
翌朝、若干二日酔い気味の頭を何とか奮い立たせて出勤し。
結局あれからは松潤への愛のこもった愚痴を散々聞かされた後、程良くいい気分になって解散したんだけど。
飲んでいる最中もずっと気にしていたスマホは一度も光ることはなくて。
にのちゃんに送ったメッセージは既読になってはいるものの未だスルー状態。
もしかしたら相当具合悪かったのかもと思いつつ、昨日翔ちゃんから指摘されたことも思い出して。
やっぱり今日の朝一番ににのちゃんに謝ろうと決意していた矢先、いきなり訪れたタイミング。
職員室へ続く廊下でバッタリにのちゃんと遭遇した。
心の準備はしていたもののこんなにも早くやってくるなんて。
「あ…お、おはようございます…」
少し先で立ったまま動かないにのちゃんに小さく挨拶をすると、肩掛けバッグのショルダーベルトをぎゅっと握り締めたのが見えた。
「おはようございます…」
俯いてこちらへ向かってくるにのちゃんの仕草にふと違和感を覚えて。
あれ?メガネしてる…?
指でくいっとメガネを直す様は久し振りに見る。
確かめたくてにのちゃんがドアに辿り着く前に早足で近付いた。
「あの、先生…」
行く手を阻むように前に立って顔を覗き込もうとすれば、頑なに俯いて肩を強張らせる姿。
「にのちゃ…二宮先生…?」
そっと肩に触れて呼び掛けた声にも押し黙ったままで。
途端に嫌な予感がして両肩を包んで再度呼び掛けると。
観念したようにゆっくりと上げた顔。
そのメガネ越しの少し赤く腫れぼったい瞳に目を奪われて。
視線が絡むと急にじわりと水分量が増し、慌ててほっぺたを包み込んだ。
「どうしたのっ?だいじょ、」
「離してっ…」
顔を振って抵抗され我に返る。
ダメだ、ここ学校だった…
「…ごめん。そんなに体調悪かったの…?」
「…別に、もう大丈夫です」
また俯いてしまったその表情は窺い知れないけれど。
絶対大丈夫じゃないのは嫌でも分かる。
また無理してる。
俺に黙って自分だけで消化しようとしてるって。
「先生…今日、ちゃんと話す機会をくれませんか?」
俯いたつむじにそっと問い掛けると。
「…私も、話したいことがあります。夕方は用具の確認もありますからその後にでも」
