
原稿用紙でラブレター
第5章 青いハートに御用心
「昨日は…」
「…はい」
「昨日は…日誌も出さずにどこに行ってたんですか…?」
言い終えてチラッと視線だけを送ってくるにのちゃん。
昨日は…
あ、知念くんと…
「あ…すみません。えっと、ちょっと生徒と面談っていうか、相談っていうか…」
「……」
「思いのほか長引いちゃって…ちょっと込み入った話もあったりして…」
昨日の知念くんからの相談のことはまだにのちゃんには言えない。
いや、言わない方がいいのかもな。
でも俺一人で抱えるのはキツいと思って昨日翔ちゃんには聞いてもらったけど。
「込み入ったって…どんな話だったんですか?」
「え?っとー…それは…」
「私には言えないようなことですか…?」
「…あ、はい…まぁ…」
自分でも誤魔化すの下手だなと思いながらも、何とかかわそうと言葉を探していると。
ふいにこちらを振り向いたにのちゃんの表情にハッと息を飲んだ。
今にも泣き出しそうでいて、けれど懸命に堪えようとして震えている唇。
その薄い唇が小さく動いて耳に届いた言葉は。
「あそこで…何してたんですか…?」
「…え?」
「誰も居ない教室で…何してたのっ…」
瞳にぐっと力が宿ったと同時に発せられたその言葉に、昨日知念くんと二人で居た教室が脳裏を過ぎった。
え、まさか…
にのちゃん、見てたのっ…?
「えっ、待って待って!にのちゃんどこに居たの!?」
「も、そんなのどうでもいいっ…あんなとこで生徒と何してたの!?」
「いや違うよ?なんもしてないって俺!」
「…っ、嘘つきっ!抱き着かれてたの見たんだから!」
こもった室内に二人の荒い声色が響き合う。
瞳にじわりと涙の膜を張ったまま睨んでくるにのちゃんと対峙して、完全に誤解されてしまっている事態に頭がパニックに陥りそうで。
…まさかあの場面をにのちゃんに見られてしまっていたなんて。
これは絶対にマズいっ…!
「待ってにのちゃん聞いて!これは違うんだってば!」
「違うってなにが?相葉くんだって頭撫でてたよね?
なにがどう違うの!?」
「うわそんなの見られて…違っ、だからあの子は俺じゃなくてっ!」
「もういいっ…!いいよもう…分かったよ、もう…」
