原稿用紙でラブレター
第6章 愛情目盛
いつもより速い心音と息遣い。
間近で聞いていたら、今こうしている間も熱が上がっていってるんじゃないかって。
「…大丈夫?」
「…ん」
視線を上げた先の固く閉じた瞼とは裏腹に、何度も"大丈夫"と掠れた声で呟く相葉くん。
そして。
「ごめん、にのちゃん…」
「…うん?」
「今日…デートできなくてごめん」
ぽつり溢したふいのその言葉に胸の奥がきゅうっと鳴った。
こんな状態なのに俺のことまで気に掛けなくていいのに。
珍しく甘えてきてくれたかと思ったら、やっぱりいつもの優しい相葉くんは変わらない。
月日と共に成長していっても根本はずっと変わらないから。
それが相葉くんで。
俺はそんな相葉くんがどうしようもなく好き。
それもずっと変わらないんだ、きっと。
「もう…そんなこと謝んなくていいから」
「だってさ、楽しみにしてたのに…」
「いいってば…また今度行こ」
「うん…でももう間に合わないかも」
「え?」
言い終えてゆっくりと体をこちらに向けてきて。
向かい合う形になったままぼんやりとした眼差しで見つめられ。
「…俺んちなんもないもん」
「ぁ…」
至近距離で逸らされない瞳はゆらゆらと揺れている。
春から一人暮らしをする相葉くん。
今日はその家の生活用品を揃える為に出掛けることにしていたから。
間に合わないって言っても…
……あ。
「だからさ…」
「……」
「にのちゃんちに住んでいい?」
…やっぱりそう来たか。
さっきまではあんなに辛そうにしていた顔も心なしかすっきりしたように映る。
伸びてきた手が頬に添えられ、その熱と共に"いい?"なんて言われたら…
「いい…ワケないでしょ!」
「え~!なんで?」
「当たり前です、大事な社会人一年目なんだから」
「え、だってどうせ毎日同じとこ行くんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃないの!」
いつの間にかお互い起き上がっての攻防戦。