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原稿用紙でラブレター

第1章 原稿用紙でラブレター






学ランの左胸に付けた白いコサージュを整えながら、体育館へと続く渡り廊下を歩く。


「雅紀っ!」


振り返って立ち止まると、走ってきた翔ちゃんが追いついて隣に並んだ。


「いやトイレめっちゃ混んでたわ」

「ふふ、間に合った?」

「ギリかな」


入試を無事に終えそれぞれの進路が決まり、俺たちは晴れてこの学校を卒業する。


まだ少しひんやりした空気の中、澄み渡る水色の空には薄雲がたなびいていて。


その柔らかな色合いの景色にあの人の笑顔を浮かべ、自然と笑みが溢れた。


「…あ、そういえば今日の分のジュースまだだ」

「はぁ?もう終わっただろそれ!」

「え、卒業式までって言ったじゃん」

「っ、くっそ!たった一日早かっただけだろ!」


ムキになって反論する翔ちゃんを宥めつつ、笑顔を向ける。



あの日のことを思い出すと今でも緊張感が蘇ってくる。


放課後の図書室でにのちゃんへのラブレターを読んだ時の、あの胸の高鳴りは忘れられない。


一晩中かけて何度も書き直して書いた、俺のにのちゃんへの想い。


今思えばかなり恥ずかしいことを書いてるけど、それでもにのちゃんは最後まで黙って聴いてくれてたっけ。


そして、最後に真っ直ぐ見つめて


"好きです"


って伝えた時の、照れたようなにのちゃんの顔が最高に可愛くて。


想いを伝えたっていう達成感や高揚感を抑えられなくて、返事を待たずについ抱き締めちゃったんだ。


そしたら、にのちゃんもぎゅっと抱き締め返してくれて。


それがにのちゃんの答えなんだって嬉しくて、ただずっとそうやって抱き合ってたっけ。



「…お前なに笑ってんの?」

「ん?ふふ、なんでもなーい」


そう、それから翔ちゃんだって…


俺に一日遅れて松潤に告白した翔ちゃんは、見事に返り討ちにあったらしく。


というのも、松潤の方からのアプローチだったみたいで…。


「お、櫻井!」


生徒を誘導していた松潤が俺たちを見つけて声を掛けてきた。


「今日も可愛いな」

「っ、やめろよ!」


ニヤけ顔で頭を撫でる松潤に赤い顔で抵抗する翔ちゃん。


…この二人、なかなかのお似合いだよな。


「ほら、式始まるぞ」


ポンと最後に頭を撫でた松潤に見送られ、赤い顔の翔ちゃんと体育館へ向かった。

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