原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
式が終わり、最後のHRの時間。
教壇に立つ大ちゃんはいつものラフなシャツ姿ではなく、黒い紋付き袴でビシッと決めていて。
クラス中から"七五三か"とツッコミを入れられ、それまでの厳かな式から一転して和やかなムードに変わった。
三年間、大ちゃんにはたくさんお世話になったな。
何でも打ち明けられる兄貴みたいな先生。
勉強のことも、家のことも。
そして、にのちゃんのことも後押ししてくれて。
告白した翌日一番に報告に行ったら、自分のことのように喜んでくれた。
やればできるじゃねえか、って。
ほんとに大ちゃんには感謝してるよ。
俺の高校生活を、最高に楽しくしてくれた先生。
ありがとう、大ちゃん。
「…じゃあこれで、俺の最後のHRは終わりだな」
そう言うと、急に教室がしんみりした空気になって。
なんだか一気に寂しさが込み上げてきた。
でも、そんな雰囲気を変えたのもやっぱり大ちゃんで。
「…お前らはな、もう"あすた"から…」
大事なところで噛み、クラス中がツッコミと笑いの渦に包まれる。
ちょっと泣きそうになってたけど、そんな大ちゃんのお陰で笑顔で最後を迎えられた。
「相葉、」
写真を撮り合ったりと教室がガヤガヤする中、大ちゃんがいつものように指でちょいちょいと俺を呼んだ。
「マジで卒業できて良かったな」
「なにそれ!おめでとうでしょ、普通」
「ふふっ、まぁ…良かったよ、色々な」
優しい顔で微笑む大ちゃんの言わんとしてることが分かって、俺もふふっと笑みを溢す。
ふいに、大ちゃんが思い出したように教壇の棚から一冊の本を取り出した。
「なぁわりぃけどこれ返してきてくんねぇ?今から」
そう言って古文の資料集を俺の前に差し出す。
「…持ち主に。約束してあっから」
ずいっと本を渡されて思わず受け取る。
…え?
これ…
「分かんだろ?行け、ほれ」
きょとんとした俺にドヤ顔の大ちゃんが背中をトンと押した。
これ…にのちゃんの…
本を見つめていた視線を大ちゃんに移し、段々と煌めいていく瞳を自覚して。
「…ありがと大ちゃん!行ってくる!」
満面の笑顔を向け教室を出る俺の背中を、"おー"と片手を挙げて見送ってくれた。