原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「ありがとうございましたー」
お釣りを手渡してぺこっと一礼してから店内の時計に目を遣った。
もうすぐかなー…。
店長からおでんの仕込みを言い渡されながらも、入口ドアが気になって落ち着かない。
すると軽い音と共に自動ドアが開き、待ち望んでいたその姿が現れた。
あ、来たっ…!
「いらっしゃいませー!」
嬉しくてつい、いつもより大きめの声で迎えてしまって。
驚いた顔でこちらを見たその顔はすぐに耳まで赤く染まる。
…にのちゃん、おかえり。
心の中で呟いてさりげなく手を振ると、赤い顔のまま逃げるように商品棚の奥へ消えていった。
にのちゃんとは、バイト先のこのコンビニで会う時間が主で。
実家を継がなかった上に学費まで出してもらうことはさすがに出来ず、こうしてほぼ毎日大学が終わってからの時間をバイトに費やしている。
にのちゃんはと言うと、新学期から一年生の担任を受け持つようになったことで色々と仕事が増えたらしく。
加えて経験のない野球部なんかの副顧問にさせられて、土日のどちらかは部活を見なければいけなくなって。
ちょっと前までは毎日学校で会えてたのに、卒業した途端こんなにも会えなくなるなんて正直思ってなかった。
だけど、不思議と寂しくはなくて。
だって、会えないぶん毎日メールして電話もして、そんなこと今まで出来ないことだったから。
俺だけに向けられる言葉や、まだ抜けない敬語のクセや、たまに聞けるちょっと甘えたような電話の声とか。
『会えない時間が愛を育てる』ってどこかで聞いたことあるけど、ほんとにその通りだと思うから。
こうして会う度に、どんどんにのちゃんのことが好きになっていく。
だからにのちゃんが仕事帰りに立ち寄ってくれるこの時間だけでも、俺にとっては十分過ぎるんだ。
いつものルートを経てレジまでやってきたにのちゃんの手には、朝ごはん用のメロンパンとブラックコーヒー。
ちょうどお客さんがいなくなったタイミングを計ってるとこも、にのちゃんらしくて可愛い。
「いらっしゃいませ」
にこっと微笑むと、目を上げたにのちゃんの口元がふわっと緩んだ。