原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「…今日は22時までですよね?」
小銭入れをぎゅっと握ったにのちゃんが、レジ打ちする俺の手元を見つめながらぽつり呟く。
あ…
どこか寂しそうに視線を落としたまま俺の言葉を待つにのちゃんに、体を傾けて小声で口を開いた。
「今日ね、シフト変わって20時上がりなの。
いつものとこで待っててくれる?」
お釣りを渡しながらそう言うと、弾かれたように顔を上げ見開いた目で俺を見つめる。
そしてピンクに染まったほっぺたでコクンと頷き、いそいそとドアに向かっていこうとしたから慌てて呼び止めた。
「にっ…これ、忘れてますっ」
身を乗り出してビニール袋を掲げると耳まで赤くして戻ってきて。
それがどうしようもなく可愛くて思わずふふっと笑えば、赤い顔のまま眉間に皺を寄せて睨まれた。
「ありがとうございましたー」
俯いてそそくさと出て行く後ろ姿に投げかけながらゆるゆるの頬を抑えることができない。
付き合い始めてから、にのちゃんのああいう色んな表情を見れるのが堪らなく嬉しくて。
もっと見てみたくて、ついからかうような態度をとったりしてしまう。
俺より6つも年上なのに、いつか俺本気で怒られそう。
でも…
そんなにのちゃんも見てみたいな、なんて。
「あ、相葉くんおでんは?」
「…あ!すみません!すぐやりますっ!」
一人にやけていたら店長から怒られてしまい、急いで作業に取り掛かった。
***
背の高い街灯の外れにぼんやりと見えるその姿を見つけ、自転車から降りて声を掛ける。
こちらを振り向いたにのちゃんは、ベンチから立ち上がって照れ臭そうに微笑んだ。
にのちゃんと会えるもう一つの時間は、この夜の公園。
バイトが早く終わる日とにのちゃんが早く帰れる日が重なった時だけの、特別な時間なんだ。
二人とも実家暮らしだから、お互いの家でゆっくり過ごすことなんて出来ないし。
忙しい合間を縫って、唯一二人だけの空間を作れるのがこの場所で。
そして…『夜』ってのがミソ。
にのちゃんの隣に腰掛けながら、バイト先から貰ってきたコーヒーを手渡す。
「…ありがとう」
俺を見つめるその瞳は、暗がりでも分かるくらい澄んで煌めいていた。