原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「でね、その教授の講義ん時ほとんどのヤツ寝てんの」
「ふふっ、相葉くんは?」
「俺は寝てないよ?真面目だもん、俺」
「ふふ…そうなんだ」
静まり返った夜の公園で、こんな他愛もない話をするのが今は最高に幸せな時間。
二人きりの時に見せる俺だけのにのちゃんの顔。
タメ口になるのも、こうして隣に座ってることで感じる近い距離にプラスされてるようで。
コーヒーに口をつける穏やかな横顔を盗み見て、いつも良いタイミングを待ってるんだ。
…今かな?
ベンチに投げ出されているまん丸い右手にそっと触れようとした時、ふいににのちゃんが小さくふぅっと息を吐き口を開いた。
「…頑張ってるね、相葉くんは」
こちらを見上げてそう言った瞳は眉が下がって潤んでいて。
自分からメガネを外してってお願いしておきながら、至近距離でのにのちゃんの可愛い顔にはまだ慣れないでいる。
じっと見つめてくる瞳が何か言いたげで、勝手に高鳴る心臓を無視してその先の言葉を待った。
「…大学は楽しい?」
「え?うん…」
「そっか…うん、なら良かった」
ふっと微笑みながらそう返したにのちゃんの瞳は明らかに潤みが増していて。
え?なんで泣きそうなの…?
「…にのちゃん」
「…うん?」
「なにか…あったの?」
「え?」
まっすぐな眼差しで見つめる俺に、視線の先の瞳がぱちっと一度瞬きをした。
そして我に返ったように居住まいを正すと、ふるふると首を軽く振って『なんにも』と緩く微笑む。
…嘘だ。
絶対なんかあったんだ。
今までは仏頂面しか見てこなかったけど、本当のにのちゃんはすぐ顔に出るタイプだから。
目の前で好きな人がこんな顔してんのにほっとけるわけないじゃん。
「どうしたの?仕事のこと?」
「…いえ、」
「家のこととか?」
「ほんと大丈夫だから…」
「もしかして…俺?」
「っ、ち…違います!」
落としていた肩がぴくっと動いたと思ったら必死な顔で俺に反論してきて。
…え?俺なのっ!?
「ちょ、にのちゃん待って!なに?俺なんかした?」
「っ、違うから!相葉くんじゃ…ないから、」
無意識ににのちゃんの手を掴み、自分でも分かるくらい焦りながら問いかけた。