原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
握っている手がちょっと冷たくて、それが増々不安を煽る。
にのちゃんにこんな顔をさせているのは…俺?
なんで?
俺なんかマズいこと言っちゃった…?
視線を落として黙り込んでしまったその手をもう一度ぎゅっと握って顔を覗き込んだ。
「…ねぇにのちゃ、」
「自分のせいなんです…」
俺の言葉を遮ってか細い声でそう言うと、ゆっくり顔を上げたその瞳が切なげに熱を帯びていて。
見たことない色気を纏ったその顔に、思わず心臓がドクンと飛び跳ねる。
いつの間にか握っていると思っていた手を逆に握り締められていて。
至近距離で見つめられたまま、恥ずかしいくらいゴクッと喉が鳴った。
「…相葉くん」
吸い込まれそうな鳶色の瞳に目を奪われ、小さく届いた声に気付く間もなく。
次の瞬間、その唇が俺のと合わさった。
…っ!
突然のことに動揺していると、間近の閉じられた右目が目に入り慌ててぎゅっと瞑る。
は…初めてにのちゃんからキスされてる…!
実感すると全身の熱が一気に上がってきて、触れている唇が火傷しそうに熱い。
柔らかく心地良いのに、燃えるようなその感触に頭がふわふわしてしまう。
あっという間のような、とてつもなく長いような。
その熱がしっとりした余韻を残して離れる感覚にそっと目を開けると、伏せられた睫毛の先にきらりと光るものが映って。
…え、
それが涙だと反射的に分かり、急に現実に引き戻された。
「にのちゃんっ…?」
すぐに顔を覗き込もうとするも、俯いたまま手の甲でごしっと目元を擦られる。
「…なんで泣いて、」
「泣いてません」
「え?でも」
「泣いてないっ…」
押し殺した声でそう絞り出し、急に立ち上がったかと思うと傍らのビニール袋を掴んで。
「…帰ります」
「えっ?ちょ、」
またぐいっと手の甲を動かしてから、肩掛けバッグのベルトを握り締めて歩き出そうとする腕を咄嗟に捕えた。
「待ってよ!どうしたの?
俺なんかした!?」
「……ごめんなさいっ」
俺の問いには答えず俯いたままぽつりそれだけ言うと、腕を振り払って暗闇の中へ走っていってしまった。
一人取り残され、脱力したようにベンチに座り込む。
にのちゃん…
どうしちゃったの!?