原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「もしもし?」
『…おぉ、今大丈夫か?』
「あぁ、まあ…何?」
この状況をどうすることもできない自分にイラつきを抑えられず、翔ちゃんには何の罪もないのについ口調が素っ気なくなってしまう。
『いやさっき二宮先生がさ、』
「えっ?なに!?」
翔ちゃんのそのワードに半ばくい気味で反応してしまった。
にのちゃんがっ…!?
『いやさっきさぁ、コンビニ行ってたら二宮先生が全力で走ってったからさぁ』
「えっ?にのちゃんどこ居たの!?」
『あそこ、大通りの本屋の前あたり』
「本屋の…前、」
ということはにのちゃん家はすぐってことか…。
そのまま無事に家に帰ってたらいいけど…
とりあえず、目撃情報を得られたことでにのちゃんの身に何かあった可能性は薄れたと言える。
それだけで昂っていた気持ちも随分と落ち着いてきて、無意識にふぅと息を吐いていた。
『…なぁ、なんかあったの?』
「…え、」
そんな俺に遠慮がちな翔ちゃんの声が届いて。
『雅紀居なかったし先生一人なんだって思ったけどさ…なんつーか…』
「…うん?」
『いやなんか脇目も振らずっつうか…あんな先生初めて見たからさぁ』
電話の向こうの翔ちゃんの口振りから、俺たちに何かあったんだときっと勘付いてる。
「うん、俺も…」
『え?』
「あんなにのちゃん…初めて見たよ」
『……』
「…どうしたんだろうね、にのちゃん…」
ボソッと呟くと悟ったように翔ちゃんも静かになって。
ほんとに…
どうしたらいいの?俺…
『…や、つぅか雅紀さ、聞いてくれよ!
こっちだって大変なんだよもう!』
そんな暗い空気を取り払うかのように、翔ちゃんがわざと明るい声で切り出した。
こうやって俺が落ち込んでいるといつもさり気なく励ましてくれるんだ。
…さっきは後回しにしてごめんね。
聞くと、松潤との関係は割と上手くいっているみたいだけどなにやら不満があるらしい。
大学のサークルとかで女の子と一緒に居ることがバレたら、かなり怒られるんだそう。
翔ちゃんもその女の子とは友達だって反論したみたいだけど、聞き入れてもらえなかったらしく。
昨日もそのことでプチ喧嘩したみたい。
…いわゆる《束縛》ってやつ。