原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「…観覧車とか、どうですか?」
顔を伏せたまま窺うように目を上げてそう呟く。
「あ~…観覧車ね。うん、いいねそれ。
よし、じゃ行こうか」
にのちゃんの提案に同意した松潤がすぐに立ち上がって俺たちにも促した。
「ちょ、まだ食ってるって!」
「も~食いしん坊なんだから、翔は」
困ったように笑うと、松潤はまた座り直して頬杖をつきながら翔ちゃんが食べ終わるのをニコニコ眺めている。
にのちゃん観覧車とか好きなんだ…
ふふ、可愛い。
ちらり横を見れば、赤い顔で唇を噛み締めたにのちゃんがどことなく緊張したような表情をしていて。
不思議に思っていると、俺の視線に気付いたらしくハッとしたようにぎこちない笑みを向けた。
反射的に笑い返したけどなんか引っかかって。
ほんとは観覧車とか苦手なのに無理してんじゃないかな。
確かめようと口を開いた時、向かいの翔ちゃんが食事を終えて『ごちそうさま!』と顔の前でパチンと手を合わせた。
そのままの流れで松潤にリードされ観覧車へと移動することになり。
結局にのちゃんに大丈夫なのか確かめられないまま、園内でも一際目立つ大きな観覧車の下に着いた。
「じゃ、またここで合流ってことで」
フリーパスチケットを掲げて、松潤が翔ちゃんと先に観覧車に乗り込む。
その後に続いて、やってきたゴンドラに二人して乗り込んだ。
扉が閉められれば外から遮断されたように急に静かになって。
どう座るか二人して探るように見つめていると、にのちゃんがそっと俺の方に一歩を出した。
そして俺と目を合わせずにすとんと先に腰掛ける。
ドキンと心臓が跳ねたけど、何とか落ち着かせてゆっくりと腰を下ろした。
二人掛けの狭い椅子に、大人の男が寄り添って座って。
無音状態の閉鎖された空間に、ゴトゴトとゴンドラの動く音だけが響く。
窓の外から見える景色は地上の人や車さえも小さく映し始めて、まるでいつもの日常から切り離されたような感覚になる。
それに、隣でジッと息を潜めるように黙り込むにのちゃんから伝わる温もりも。
…きっと高い所が怖いから隣に来たんだ。
でも、そうじゃなかったら…
こんな非日常なシチュエーションに、どうしたって心臓が高鳴ってしまって。