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原稿用紙でラブレター

第2章 年上彼氏の攻略法






その時、下腹部にグッと何かが押し当てられて。


「やめっ、もぉっ…やめなさいっ…!!」

「ぐぁっ!」


次の瞬間には後頭部にガツンとした衝撃が走り、一瞬で目の前に星が散った。


グラグラと揺れるゴンドラの中で、俺の頭もグラグラと回っていて。


何とか目を開けた視線の先には、赤い顔で肩で息をするにのちゃんのスニーカーの裏が。


窓に頭を預けるように凭れて、眉根を寄せて俺を睨むように見つめている。



え、待って…


俺…


にのちゃんに蹴られたっ…!?



ようやくこの状況が飲み込めて、同時に現実にも引き戻された。


後頭部とお腹に鈍い痛みが残りつつも、目の前のにのちゃんの様子に急激に罪悪感が募りだして。



っ、やばっ…!



「ごめっ…俺っ、」

「来ないでっ…!」


すぐに起き上がって擦り寄ろうとすると、にのちゃんから思いがけない言葉が発せられた。


「ぇ…」

「待って…来ないで…」


未だ大きく呼吸を繰り返しながら、真っ赤な顔で唇をぎゅっと噛み締めている。


よく見ると片足のスニーカーは脱げ、ネルシャツは中途半端に捲られたまま。


そしてジーンズのベルトも外されて、ベルトの革がくったりと寛げられていた。


その姿に一気に血の気が引くような感覚に陥る。



…なんてことをしてしまったんだろう。


にのちゃんの気持ちも無視して、自分勝手に強引に事を進めて。


こんなとこで先になんか進める訳ないのに、自分を抑えることがどうしてもできなくて。


最低なことした…


俺、なんて最低なヤツっ…



にのちゃんに視線を向けると、投げ出していた片足を引き寄せて縮こまるように体を強張らせた。


「…ごめん。ほんとに、ごめんなさい…」


視線を遣るだけでそんな反応になるにのちゃんに、もう目を合わすことも出来ずに俯いてぽつり呟く。


すると、小さくはぁっと息が漏れて引き寄せた膝を抱えて顔を伏せてしまった。


その小さくなった姿に堪らなくなったけど、近付くなと言われたことを思い出してグッと思い留まる。



にのちゃん…



静まり返ったゴンドラ内は、さっきまでの熱気を帯びた空気は微塵も無くなっていて。


それから地上に着くまで、にのちゃんは膝を抱えたまま一度も顔を上げることはなかった。

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