原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
その後のバイト中もにのちゃんのことが頭を駆け巡って、いつもはしないミスをちょこちょこしてしまって。
普段なら店長に怒られても愛想笑いで切り抜けられるけど、今日は気持ち的にもそんなタフにはなれなかった。
逆に体調を心配されて、時間より早めに上がらせてもらうことになり。
一瞬の気の迷いのせいでにのちゃんを傷付けてしまった上、バイト先にも迷惑をかけることになるなんて。
こんなの"若気の至り"なんかじゃ片付けられない。
そんなことを思いながら、つくづく自分のしてしまったことに嫌気が差した。
店長に挨拶をして店の裏口から出て、スマホを確認してみる。
俺の送ったメッセージは今日も既読になっていない。
あれから毎日、一方的ににのちゃんにメッセージを送り続けていて。
まずは謝罪から、そしてその日のバイトの予定や他愛もないことも含めて何度か送りつける。
そして必ず『好き』『会いたい』『会ってちゃんとごめんって言いたい』という言葉を添えて。
もしかしたら、こんな一方的なメッセージさえも迷惑に思われてるかもしれない。
"絶対に会いたくない"人から、こうしてしつこく送られてくるんだから。
だけど…
"伝え続けることが大事"だって大ちゃんから教わったから。
中途半端な気持ちで告白した訳じゃない。
本当に、にのちゃんが好きだから。
大好きなんだよ…にのちゃん。
スマホをぎゅっと握り締めて小さく意を決する。
…やっぱり、会いに行こう。
会ってちゃんと謝って。
もう一度、想いを伝えよう。
そう小さく頷いて自転車に跨った時、店の前の道向かいを歩く姿にふと目が留って。
数歩進んだかと思えば立ち止まり、またくるりと振り返って引き返す。
肩掛けバッグのベルトを握った小さい猫背のその姿。
うそっ、にのちゃん…!?
そう思ったが早いか、自転車に跨ったまま大きな声で叫んでいた。
「にのちゃんっ!」
すると、ふっと顔を上げたにのちゃんが歩みを止めてこちらを振り向いて。
ハッとした顔をしたと思ったら、いきなり逃げるように走り出した。