原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「え、ちょ!にのちゃんっ!」
一目散に駆け出したその姿に驚く間もなく、慌ててペダルに足を掛けて漕ぎだした。
車道を挟んで少し前を走るにのちゃんを捉え、立ち漕ぎながら形振り構わず叫ぶ。
「にのちゃんっ!待ってっ…話っ、しよっ!」
必死に前を向いて走る後姿に投げかけるけど、車が往来する音に掻き消される。
「待ってっ…にのちゃんっ!」
全力で漕ぎながら追いかければ、自転車のスピードに勝てる筈のない足は段々失速しだして。
するとようやく諦めたのか、肩で大きく息をしながらゆっくり立ち止り両手を膝について呼吸を整えるように項垂れた。
「っ、そこで待っててよ!すぐ行くからっ!」
ぼんやり灯る街灯の下で小さくなっているにのちゃんに叫ぶと、丁度のタイミングで青に変わった横断歩道を駆け抜ける。
少し戻って辿り着き自転車から降りて、未だ肩を上下させて項垂れるにのちゃんに駆け寄った。
「だ、大丈夫…?」
そっと肩に触れながら問いかければ、ぴくっと体を揺らして静かに顔を上げて。
走ったせいもあってか頬を上気させて見上げられ、あの日以来見たにのちゃんの顔に心臓がきゅっとなる。
「あの…ご、ごめんね?
俺、ちゃんと謝りたくて…」
「……」
見つめられてドキドキしながら、たどたどしく言葉を紡いでいると。
はぁっと息を一つ吐き、ずり下がっていたバッグを肩に掛け直しながら口を開いた。
「俺も…話さなきゃいけないことあるから…」
目を伏せてぽつり発したその言葉にドキンと心臓が飛び跳ねる。
それってもしかして…
言い知れぬ不安が頭を過ぎり、体の奥から変な汗が滲み出てくる。
「そこで話そっか…」
公園の方を見遣ってから窺うように俺を見上げるその瞳に、小さく『うん』と返事をするしか出来なくて。
ついにこの時がきちゃったんだ…。
会いたいと思っていた反面、にのちゃんの前でどんな顔をしたらいいかずっと悩んでいた。
会ってしまったら、どんな言葉を突きつけられるんだろうって。
俺いま、どんな顔してるんだろう。
…怖いけど、受け止めないと。
まず、ちゃんと謝らなきゃ…
見えないようにぎゅっと拳を握り締めて、見慣れた公園のベンチへと自転車を押して歩き出した。