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原稿用紙でラブレター

第3章 消費期限は本日中






棚の上の置時計がそろそろ約束の時間を差そうとしていた。


今日は相葉くんの誕生日をうちでお祝いすることになってて、夕方からせっせと準備をしていたんだけど。


一人暮しを初めて少しは慣れたものの、まだ誰かに食べて貰えるようなまともな料理は作ったことがなくて。


スマホの料理アプリとにらめっこをしながら、数時間かけてようやく仕上げに入ろうとしていた時。


調理台に置いていたスマホが震え、新着メッセージの通知が届いた。


見ると、相葉くんからで。


もう着いたの!?と内心ドキッとしながら、エプロンで適当に手を拭いて画面をスワイプすると。


『にのちゃんごめん!
今バイト終わって出るから!
一回家帰って行くね!
にのちゃん大好きだよー!』


全部の文章に「!」が付いているメッセージ。
その続け様に並んだ文の最後を見て胸がきゅっと鳴った。



今日は…
俺にとっても特別な日になると思う。


あの日、恥を忍んで松本先生に相談して良かったかもしれない。


今日のこの日の為に…
自分なりに準備してきたつもりだから。


松本先生に提案してもらった今日の段取りも頭の中で毎日シュミレーションしてきた。


うまく…いくといいけど。



はぁっと息を吐くとトクトクと心音が響き、意識しないようにしていた緊張感が急に訪れて。


大丈夫と何度も心の中で言い聞かせながら、メッセージの返信に指を滑らせた。



***



予定より30分程過ぎた頃、軽いチャイムの音が部屋にこだました。


何とかギリギリ間に合ったテーブルの上を見てホッとし、すぐに玄関へと向かう。


ドアを開ければ覗かせた顔に胸がとくんと跳ねて。


なぜか驚いたような顔の相葉くんと目が合って、少しの間の後いつもの優しい笑顔に戻った。


「ごめんね、遅くなっちゃって…」

「ううん、お疲れさまでした。
寒かったでしょ、外」


ぐすっと鼻を啜りながら中に入ってくる相葉くん。


鼻の頭が赤くなってて、風を切って急いで自転車を漕いで来たのが見てとれる。


「にのちゃんあっためてー」


そう言うと、ふいにほっぺたを両手で包まれて。


「…くふ、あったかい」


冷たい手の感触に驚くより先に、目の前の相葉くんの笑顔にみるみる熱が上がってきた。



どうか…
うまくいきますようにっ…

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