卑怯なボクは深海魚
第1章 見なかった事には出来ない
「――――…な…何を…バカな…こと…」
先輩の声は――――…驚きと焦りが入り交じった…喉を潰したよな声だった
「――――バカ事…本当にバカな事だと…ボクも思いますよ?何で――――…盗んだんですか?」
先輩の顔がグッと――――…また、強張る
不安と恐れ――――…そして、拒絶…
こんな先輩の顔は…学校では見たことが無い…
「――――先輩…何で、盗んだんですか?」
「証拠は…証拠が無いのに…盗んだ、盗んだって――――!何なんだよ君は!!」
先輩は、僕の手を振り払うと――――…ボクから距離を取った…
――――証拠は…無い…
何も無い…
ただ…ボクが先輩の腕を掴むためだけの…口実だったのかもしれない
振り払われ――――…ボクの手のひらは…熱を失った
そして――――…さっきまで近かったボクと先輩の距離は
果てしなく遠く感じた――――…
この距離を…
埋めたい
ボクの中で広がった【欲】は…
ボクを最低な人間にしていく――――…
「――――……証拠なら……有りますよ」