風鈴ちゃん
第1章 風鈴ちゃん
インターホンの音で目がさめた。
窓からは、焼けつくような強い日差しが降り注いでいる。午後からある大学の講習のためにと、少し微睡むつもりで目を瞑ったのが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。上半身裸で眠っていた僕は、急いでTシャツをまとった。
この小さなアパートに越してからまともに掃除をしたことがないため、足の踏み場もない。床を埋め尽くす荷物をまたぎながら、僕は玄関へ向かった。
ドアにへばりつき、ドアスコープから外をみる。
外には、女が立っていた。白いワンピースを着た女だ。黒い髪を長く伸ばして背中の後ろへ垂らしている。見たことのない女だった。
ドアスコープから目を離して、誰だろうと思案していると、ふたたびインターホンがなった。そして、その女のものらしい声が言った。
「すみません、お届けものです」
「届け物?」
ドア越しに尋ねてみる。
「はい、ネットで風鈴をご注文なさいましたよね」
「ああ」
言われてやっと納得した。漠然とネットを漁っていたら風鈴の画像に行き当たり、それを見た僕は、この夏はひとつ風流に過ごしてみようと、風鈴を注文したのだ。それが届いたのだろう。
しかし表にいる女はワンピース姿だ。配達員には見えない。まあ、いい。とりあえず注文の品を受け取ろうと、ドアを開けた。
「あ、ごめんください。ご注文の風鈴でございます」
「暑い中、ご苦労さまです」
「いえ、ええと」
女は確認のためにと、僕の名前を口にした。
「間違いございませんでしょうか」
「間違いないです」
「お買いあげありがとうございます。それでは失礼いたします」
「はあ?」