風鈴ちゃん
第1章 風鈴ちゃん
「とり憑いてるんです」
暑い。CカップだかBカップだか知らないけど、案外豊かな圧迫感を背中に感じる。
「それはとり憑いているんじゃなくて、ただ単に物理的に密着してるだけじゃないか」
「いいえ、とり憑いているんです」
「離れろ」
「駄目です」
「暑いし、これじゃあ外出もできないだろ」
「知りませんよ、そんなこと。とり憑いてもいいって言ったのはあなたじゃないですか。自業自得ですよ」
頭を抱えるしかなかった。
「わかったよ。捨てるのはよすから離れてくれ」
「そういうことなら」
女は背中から離れて、また元の場所へ戻り、膝を抱えて座った。
それにしても、どうやって追い出すべきか。面倒くさいが、やはり警察に連絡するべきか。
――それしかないか。
僕は携帯を持ってトイレに入った。電話をしているところを見られないようにするためにトイレにこもったわけだが、なんで侵入者に対して、住人である僕が気を使わなくてはならないのだろう。理不尽と思いつつも、僕は自分の行動を止められなかった。
トイレのドアを閉め、110番をしてなるべく小声で事情を話した。説明するのが難しかったけど、なんとか来てもらえることになった。
トイレから出てしばらくすると、インターホンが鳴った。警官が来たようだ。あいかわらず部屋の隅でうずくまっている女を一瞥して、僕は玄関に向かった。いちおうドアスコープを覗いて、外にいるのが警官であることを確認してからドアを開ける。
警官はリビングまであがってくると、部屋一面を見渡してからぽつりと言った。
「それで、不審な女というのはどこにいるんですか」
「はあ? この人ですよ」
僕は、部屋の隅に座っている女を、人差し指で指し示した。僕の指の先を、警官は見る。