風鈴ちゃん
第1章 風鈴ちゃん
「いきなりバストのサイズを聞くなんて失礼にもほどがありますッ。私はCカップです!」
どこから正せば良いのか分からなかった。落ち着くために深呼吸をしてから、ゆっくりと言った。
「いいか。まず僕が言ったサイズというのは、風鈴と人間の大きさの差のことだ。バストのことじゃない。次に、きみはなぜだか知らないけど、自分でサイズを申告した。ちょっとは落ち着いて話を聞いてくれ」
「も、申し訳ありませんでした」
女は口元に指をあてて、少しうつむいた。そして上目遣いに僕を見て、
「本当はBカップなんです」
と言った。
「そこを謝ってほしいんじゃない! ぶったことを謝ってほしいんだよ!」
「失礼しました。私、風鈴のくせに……」
まるで風鈴でなければぶってもいいような言い草だ。あきらかに風鈴ではなく人間なのだが。
それにしても、これでは話にならない。これ以上率直に「出ていってくれ」を繰り返しても通じそうにないが、こればかりは訴えないわけにはいかない。僕はもう一度言った。
「いい加減に出ていってくれよ」
「私を、捨てるというんですか」
「捨てるというか、出ていってほしいだけだ」
「私は風鈴ですから、人間に言うような言葉は適切でないと思います」
「だから人間だろうが」
「知ってますか? ものを粗末にすると、粗末にされたものは付喪神となって人間に取り憑くんですよ。それでもいいんですか」
これは脅迫だ。しかも極めて幼稚な脅迫だ。こんなものは突っぱねてしまえばいい。
「とり憑くなりなんなりすればいい。だから出ていってくれ」
「わかりました。では遠慮なく」
女はそう言うと、立ち上がって僕の背後に歩み寄ってきた。そして、そこでふたたび座り込むと、僕の背中にしがみついてきた。
「何だこれ」