テキストサイズ

罪と罰

第1章 1

「寂しい思いをさせて悪かった」と口に出そうとした時、何か腐った臭いがツンと鼻を掠めた。

「あぁ…お兄様。早くあなたに会いたい。早くこの扉を開けて!」

俺は耐えきれない臭いに、胃から何かが逆流してくるのを感じた。
扉は開けられない。開けてはいけない。
警告が頭の中に響く。

「ねぇ…お兄様、なぜ開けてくれないの? 私に会いたくないの? あんなに私たちは愛し合ったというのに…!」

ギリッ…ギリッ…と鉄の扉を引っ掻く音が聞こえてくる。
俺は確信した。
扉の向こうにいるのは人ではない、と。
かつて愛し合った妹は、まだ地獄をさまよっているのだと。

「お兄様…ここを開けて…開けて…開けろ…開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ…!!」

妹の悲痛な叫び声がこだまする。

「やめろ…!!」

俺は耐えきれず、遂に声を出してしまった。
瞬間、声はピタリと止み、玄関のドアがゆっくりと開かれた。
一瞬、眩しい光が目を覆った。
その光の中で美しい少女が微笑んでいるのが見えた。
彼女こそ、俺の愛した人。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ