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赤い糸

第2章 愛する人


「直也…」

「京介さん!」

美紀ちゃんと病室に戻るとドアの前に直也がいた。

「私が呼んだんです。」

直也はこの世の終わりのような顔をして目を真っ赤に腫らしていた。

「何でおまえが泣いてんだよ。」

「だって…」

コイツは今も昔も可愛い一番の後輩。

泣きたい俺の代わりに涙を流してくれたんだ。

「大丈夫だから。」

そんな優しい後輩の背を叩いて美紀ちゃんに病室のドアを開けてもらうと

「起きたの?」

ベットを起こして

「うん…」

いつものように柔らかく微笑む璃子がいた。

「あれ?直也さん?」

「美紀に聞いて来ちゃった。心配したよ。大丈夫?」

いつもと変わらない?いや少しぎこちないか。

それでも俺は心が軽くなった気がした。

それなのに何故だろう…愛らしい声を聞いて胸がざわついた。

それはどうしてか

璃子のお母さんが俺を申し訳なさそうに見るからか

それともその笑顔を拝めたからか

いや違う。

「あの人はどちら様?」

小さな声で美紀ちゃんに確認するおまえ。

本当に俺のことを記憶から消し去ったと確信したからだ。

でも美紀ちゃんは諦めちゃいなかった。

「直也の高校時代の野球部の先輩の森田京介さん。あれ?知らなかったっけ?」

含みを持たしてくれた。微かな希望って言うのかな。もしかしたらみたいな感じで。

璃子は頭にはてなマークを並べながら軽く俺に会釈をすると目を一度ギュッと瞑ってコメカミに指を添えて小さな声で

「あ…信金さん…」

これは正直迷った。

喜んでいいのかがっかりなのか…

「こんにちわ…あっ、こんばんわですね。」

でも覚えてくれてたんだな。おまえと球場で会う前の俺を…

「直也さんの…お友だちだったんですね。」

頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうに小さな声で言葉を紡ぐ。

そう、おまえは男慣れしてないんだよな。

それなのに

…コンコン…ガチャ…

「おっ、起きたな?」

「エヘヘ…寝過ぎちゃった。」

この医者には軽く話すんだ。

「あっ、リンゴジュース!」

「飯 全部食ったご褒美な。」

神様…何か気に入らないことをしたのなら謝ります。

だから…他の罰に変更してもらえないでしょうか。

「達也さん、ありがと。」

俺にはキツすぎます。

「いいから早く飲んで早く寝ろ。」

これはキツすぎますって…

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