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赤い糸

第12章 赤い糸


目の前にいる瞳が大きな彼女は

「ありがとうございます!すぐに終わらせますから。」

手振り身ぶりを加えながら必死に言葉を紡いでいた。

「すべて持って帰ります。」

でも、その内容は彼女の表情と反対で

「大丈夫です!大きな袋を持ってきましたから。」

俺たちが離れてしまったことを意味する言葉で

「パッパッと終わらせますから。」

…ガチャ

「どうぞ。」

「…おじゃまします。」

無理をしている表情や声色が俺の心を苦しめた。

…強くなったな。

約一年、俺は璃子を見てきた。

「あの…」

「勝手に開けていいから。」

「すみません…失礼します。」

そして2度恋に落ちた。

記憶を無くす前の璃子は受け身で俺に手を引かれて後をついてくる感じだったけど

「ヨイショ。」

記憶を無くした璃子は俺から離れまいと必死で手を握りしめてくる感じ

どちらも大好きな璃子だけど…今の方が惚れてるかもな。

「あの…」

「ん?」

「このクリスマスツリーも持って帰っていいですか?」

何にも覚えていないはずなのに俺たちの思い出を手にするなんて

「いいよ。」

そういえば、場面場面は瞼の裏に映し出されることがあるって言ってたっけ。

真っ直ぐな心が俺にダイレクトに伝わって俺の胸を何度締め付けたことだろう。

あとは感情だけだったのに…

もしかしたら…俺が断らなければ近い将来思い出してくれたかもしれない。

でも、未来のことは誰にもわからない。

「意外にありますね。」

クローゼットの中から出されるパステルカラーの洋服は真っ黒なボストンバッグに詰め替えられていく。

「いつでも来れるように、なんでも置いてってたから。」

少しずつ膨らみを増すバックは今まで俺たちが歩んできた証

「入りきるか?」

「たぶん…ヨイショ。」

愛しあってきた証

小さな背中がさらに小さく見える。

抱きしめたい衝動を抑えるのに必死になる。

「なぁ。」

コイツは大切なことを教えてくれた人

「…はぃ!」

その人が今にも泣きそうな顔して無理して笑ってる。

「送るよ。」

振ったのはオレ

「大丈夫です!一人で帰れます!」

酷い台詞を吐いたのも

「送らせて。」

ウソをついたのも

「…」

泣かせたのも

「…泣くなよ。」

最後はいい男で終わりたいワガママなオレだった。

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