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赤い糸

第12章 赤い糸


まるで稲妻が落ちたようだった。

ピカッと目の前が明るくなったと思ったらズキッと傷んで

「璃子!」

小指を繋ぎ合わせたまま私は屈み込んでしまった。

場面場面は瞼の裏に映っていたけど感情が追い付かない。いや、まったく無かった。

洗濯物の山が見えてもカーテンレールにYシャツが並んでも…

だから?って本当にそれだけだったのに

「吸って~吐いて~。」

背中を擦ってくれるその手が

「大丈夫、ゆっくりでいいからな。」

その優しい声が

「…痛い…」

私の心に素直に入ってくる。

「大丈夫。」

「痛いよぉ…京介さん…」

絡めた小指をギュッと握り思い出した言葉を繰り返す。

このまま離れたくない。

ずっと傍に居たい。

でもね

「そんなんでどうすんだ?アメリカ行くんだろ?」

やっと、あなたへの溢れるほどの感情を取り戻したのに

「そうですね…」

私は面倒くさいからとバッサリ振られた身。

痛みを堪えてなんとか笑顔を取り繕う。

…ちゃんと笑えていますか?

「エライエライ。」

笑えていないからそんな寂しそうな目をするの?

「指切りしましたもんね。」

「だな。」

あの日のように私はあなただけのモノだと言ってほしいのに…

…思い出さなきゃよかった。

繋がれた小指から伝わればいいと思いながら心残り中であなたへの想いを紡ぐ。

「…あの。」

でも、ちゃんと伝えたいことは口に出さなきゃ

「図々しいんですけど…」

「なに?」

「ひとつお願いをきいてもらえませんか。」

ちゃんと思い出にしてアメリカに旅立てるように

「いいよ。」

とびきりの笑顔で

「…お別れの…キスをしてください。」

無理難題を押し付けてみる。

「な~んて。」

「いいよ。」

「…え。」

「俺もキスしたい。」

「あ、え…」

「おまえのこと一生忘れないようにキスしたい。」

あぁ、そうだ

京介さんは私を欲しがるときに射抜くような冷たい目をする人だった。

「璃子…」

繋がれた小指に軽く冷たい唇が添えられると

「璃子…」

「…京介さん」

引き寄せられるように唇を重ねた。

「…んっ…」

強引なのに優しくて

「まだだ…」

甘くて苦しくて

「…んうっ…」

角度を変えて何度も降りそそぐ冷たい唇。

私の大好きな冷たい唇。

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