赤い糸
第12章 赤い糸
いろんな意味を込めて重ねた唇は
「…璃子」
柔らかくて甘くて媚薬ように俺を酔わせる。
おまえが振ったんだぞ!なんて自分に言い聞かせても
「ほら…もっと。」
欲張りな俺は自分から唇を離そうとはしない。
いや、離せなかった。
だから俺は璃子から唇を離させるように強引に舌を割り込んだ、んだけど…
…え
コイツ…受け入れやがった。
*
冷たい唇から割り入れられた彼の舌を
「…んうっ…」
私は迷うことなく受け入れた。
だって 追い付かれないように逃げてもすぐに絡め取られるのを思い出したから。
まだすべてを思い出したわけじゃないけど…私も京介さんのことなんでも知ってるんだよね。
だからこんな狭い口内で逃げ回っても意味なんてない。
それに…一度絡めてしまえば私の方こそその長い舌を離せなかった。
…ズキン
小さな痛みがコメカミに走る。
その瞬間にまた彼への想いが込み上げる。
そうそう…京介さんのキスは強引なようで優しくて、呼吸が下手な私に合わせてくれる。
だからずっと蕩けるようなキスをし続けることが出来る。
でも…この唇が離れたらもう終わり。
最後のわがままを京介さんが哀れんで受け入れてくれただけ。
ありえないけど…もし私の記憶が戻ったと京介さんが今気付いてくれたら
その時は…もう一度あの広い胸に戻ってもいいかな。
気付いたからって戻れる保証なんて何もないけど…
*
一瞬体が強張ったけど逃げるどころか俺のYシャツを握りしめ必死に応えようとするコイツ。
先週やっと重ねた唇はえらく緊張していて固さを感じたぐらいだったのに
…おかしいだろ
いくら最後のキスだって
…いや、おかしいって
まるで記憶を無くす前に教え込んだキスを交わしているようで
…絶対におかしい
俺はゆっくりと腕の力を抜きながら璃子の唇から離れた。
璃子は息を整えながら一粒の涙を溢すと訴えるようにもう一度俺を見つめた。
…間違いない
潤んだ瞳も
シャツを握る力加減も
小指から伝わる溢れる想いも
神様が最後にくれたチャンスなのかもって。
璃子はこの事実を俺に告げないでアメリカに旅立つつもりだろう。
「…おまえ。」
璃子が自らその事実を語らなくても
「もしかして…」
俺はおまえのすべてを知ってるんだよ。