テキストサイズ

赤い糸

第2章 愛する人


週末、俺たちは久しぶりに駅前の居酒屋に集まった。

「大変だったな。」

それは京介さんを慰めるためっていうか、現状を詳しく知りたいっていうか

「あぁ…」

大きな溜め息を溢す京介さんはこの二週間かなりキツかっただろう。

璃子ちゃんに出逢う前の冷酷な感じを少し漂わせていたから。

「大変なのはこれからだろ。」

長谷川さんがポツリと呟くと京介さんはジョッキに残った生ビールを一気に煽り

「ホント…参ったよ。」

らしくない台詞を吐いた。

長谷川さんはそんな京介さんの背中をトンと叩いて肩を組み

「すいませーん!生一つ!」

佑樹さんは京介さんのおかわりを注文する。

俺はというと…

「璃子ちゃんの具合は?」

「退院はしたけどまだ頭痛が残ってるみたい。」

京介さんの代わりに二人に状況説明。

「記憶の方は?」

「それは…まだかな。」

事態はそんなすぐには動かない。

「じゃあ医者と?」

あまり触れたくない話だけど逃げるわけにはいかないから俺は無言で首を縦に振る。

「…そか。」

先日、病室で会ったときは京介さんもまだ気を張っていたんだろうな。

今日の京介さんは力なく髪をかきあげ溜め息ばかり漏らしていた。

「なぁ、どうしてその医者と付き合ってるって脳は変換しちまったの?」

「それは…記憶が混同が原因らしいです。大切な記憶を失うと別の何かで補おうとする。それがたまたまそのお医者さんだったって感じゃないかって。」

美紀から聞いたことをそのまま伝える。

「きっと京介との時間を大切にしてたからその記憶をしまい込んじゃったのかもな。」

「だな。おまえ愛されてたもんな。」

俺たちの瞳の奥に璃子ちゃんの屈託のない笑顔が映し出される。

フニャリと目を細めてちょこんと京介さんの横にいる彼女

京介さんも見えてるんだろうな。前髪の奥で一瞬微笑んだ気がしたから。

「で、これからどうすんだよ。転勤したんだからあの病院行けねぇだろ。」

「だよな。お見舞いにって家に行くわけにもいかねぇし。」

頭を悩ますみんなは京介さんの凄さをわかっていない。

「クククッ。」

「なんだよ直也。」

「みなさん京介さんの璃子ちゃんへの愛の深さは半端ないの忘れました?」

今日集まった理由

「京介さんの愛をナメちゃいけませんよ。」

それはもちろん作戦会議です!

ストーリーメニュー

TOPTOPへ